コラム

獣医療訴訟 カルテ

獣医師のカルテについて⑥~有益な記載(3)~

弁護士 小島梓

今回も,証拠として役立つカルテとするための有益な記載をご紹介していきます。

 三点目は,特殊な治療方針をとった場合の理由とオーナーへの説明内容です。これは「獣医師のカルテについて④~有益な記載(1)~」の中でご説明した,治療内容の説明の延長線上の話でもあります。

 まず,いかなる治療方針であったとしても,その決定に関しては、オーナーの意思確認を行い,オーナーの承諾をとって行ったことであることは,カルテに記載いただきたいです。

 その中でも特に気を付けていただきたいのが,通常とは異なる特殊な治療方針をとった場合です。この場合は,意識的に,特殊な治療方針をとった理由,その理由を説明してオーナーの承諾をとったことをカルテに記載いただきたいと考えております。

 仮に,特殊な治療方針をとった結果,ペットが亡くなってしまった場合,訴訟になりますと,裁判所において,まず,獣医師が通常と異なる治療を行ったという時点で,基本的に獣医師に過失があるという推定が働きやすい状況になってしまいます。

 さらにオーナー側から治療方針に関して説明は聞いていなかった,リスクが理解できていなかったという主張が出てきてしまいますと,事実上,特殊な治療方針をとった理由,それについてオーナーに説明の上,承諾を得たことを獣医師側で立証しなくてはいけないという状況になりがちです。

 このようなときに役立つのがカルテの記載です。
 カルテに,特殊な治療方針を採用した理由,それを説明したうえでオーナーの承諾を得たことの記載があれば,この点についての立証がしやすくなります。

 次回は,これまでご紹介してきたような事柄についてカルテに記載があることが,オーナーとのトラブル予防にもつながるという観点からご説明させていただきたいと思います。