獣医師のための問題と対策

手術の承諾書等、各種書類の作成とリーガルチェック

1.はじめに

多くの動物病院では、ペットに対して麻酔を使用する処置を行う際に、事前にペットのオーナー様に対して、手術に係る説明を口頭で行われていると思います。では、当該説明を記載し、ペットのオーナー様が手術に同意したことが分かる、いわゆる手術承諾書を取得し、保管しておられますでしょうか。

当事務所では、麻酔を使用する処置を行う際には、口頭での説明に加えて、ペットのオーナー様より手術承諾書等の必要書類を取得いただくことをお勧めしており、すでに使用されている雛形についてのチェックや、新たな作成をさせていただいております。

昨今の動物病院を取り巻く環境を考えますと、承諾書の取得を必須と考えているためです。以下、承諾書の必要性・重要性、内容・取得方法について簡単にご紹介したいと思います。

2.手術承諾書取得の必要性・重要性

  1. ペットのオーナー様とのトラブル防止

    ペットのオーナー様とのトラブルになるきっかけで非常に多いのが、ペットが亡くなってしまったときなどに出てくる「麻酔や手術が危険だとは思わなかった」などというクレームです。

    ペットのオーナー様は、獣医師や動物看護師より受けた説明をよく理解できないまま、麻酔を使用する処置を受け入れてしまうことが少なくありません。しかし、ひとたび、麻酔や手術の結果ペットが亡くなってしまったりすると、当時その危険性を理解できていなかった、理解していれば処置はしなかったのにという流れで、クレームになりやすい傾向にあります。

    このようなクレームを防ぐ一つの方法が、ペットのオーナー様より承諾書を頂くことと考えております。人間、口頭での説明はどうしても流れてしまいがちですが、書面に記載されたものを読み、かつ署名押印をするとなると、慎重になります。その結果、まずリスクを理解できないまま、手術を受け入れるということが少なくなり、クレームにもなりにくくなるため、クレーム防止につながることになります。

  2. 説明義務を果たしたことの証拠としての役割

    当事務所では、ペットのオーナー様から動物病院が訴えられてしまったケースにも数多く携わってまいりました。その経験上、訴訟の中で、原告であるペットのオーナー様より主張されることが多いのが、いわゆる「獣医師の説明義務違反」です。具体的には、獣医師より麻酔・手術の内容、危険性について聞かされていなかった、聞いていたら手術を受けなかったというものです。しかし、当事務所が、獣医師の方に事情を伺いますと、少なくとも口頭では、十分な説明をしているということがほとんどです。

    ではなぜ、このような主張が出て来てしまうのでしょうか。

    まず、一つは上記(1)に記載しましたように、実際には説明を受けていたのに、理解できていなかった、受けた説明を忘れてしまったということが考えられます。さらに、説明をした証拠が残っていないので、自由な主張が出やすいということもあります。その結果、せっかく、獣医師が口頭により十分な説明を尽くしていても、それが立証できず、裁判所に説明義務を尽くしていたと認定してもらえない、ひいては、説明義務違反が認定されてしまうというケースが出てきます。

    このように、獣医師の適正な対応が認められないというのはとても残念なことだと思います。しかし、このような事態になった時でも、獣医師が説明したことが立証できる手術承諾書等の客観的な証拠が提出できれば、説明義務違反の認定を回避することが可能になります。手術承諾書は、獣医師、ひいては動物病院をお守りする道具にもなり得るものです。

  3. まとめ

    以上のように、手術承諾書は、ペットのオーナー様にとってのみならず、動物病院や獣医師の先生方をお守りするためにも非常に重要かつ、必要性の高いものです。

3.手術承諾書の内容・その取得方法

  1. 内容について

    当事務所で、動物病院で既に使用されている手術承諾書の内容を拝見しますと、よくあるのが「当該手術について説明を受け、同意します。異議申し立ては一切いたしません」ということが抽象的に記載されているのみの書面です。一見、問題ないように思われるのですが、実は、このような内容の書面では、取得いただいてもほとんど意味がありません。

    先に2項でご紹介しましたように、承諾書を取得する意味は、主に

    • ペットのオーナー様に麻酔や手術の内容、その危険性を理解していただくこと
    • 当該事情を獣医師が説明した証拠にできること

    という点にあります。

    そういたしますと、手術承諾書には、麻酔や手術の内容、その危険性を記載することが重要であることがお分かりいただけるかと思います。当事務所では、これまでの経験や裁判例に鑑み、必要十分な記載内容となるよう、アドバイスを差し上げております。

  2. 取得方法について

    獣医師の先生方に手術承諾書の取得をお勧めすると、「いちいち手術の承諾書を取得することになると、業務が回らなくなってしまう」というお声を頂戴することが多いです。確かに、手術に関する口頭での説明に加え、承諾書までいただくことになると、その手間と時間は無視できないものになります。

    そこで、当事務所では、各クリニックの状況に応じて、頻回に行われる手術類型に関しては、詳細な雛形を作成したり、ペットのオーナー様からの取得方法を工夫することで、取得にかかる手間と時間を出来る限り軽減する方法もアドバイス差し上げるようにしております。

4.まとめ

当事務所では、手術承諾書の適切な中身のみではなく、その取得方法にいたるまで、システム全体についてアドバイスをさしあげることが可能です。また、手術承諾書以外にも動物病院であれば、取得しておいた方がよい書類などについてもご説明いたします。

今使っている書類は内容的に意味のあるものなのかチェックしてほしい、承諾書は必要だと思っているけど、どういった内容でとったら良いのか分からない、クリニックの業務と両立できるような取得のシステムを構築したいというお悩みをお持ちの場合は、これを機にぜひ一度ご相談ください。