競業避止義務と代償措置
弁護士 長島功
通常、動物病院ではそこまでスタッフ獣医師に対し、競業避止義務を負わせる必要性は高くないと思いますが、特殊な診療やノウハウをもっている2次診療の動物病院などでは、競業避止義務をスタッフ獣医師に課したいとのご相談を受けることがあります。競業避止義務の一般的な内容については、以前のコラムでご紹介しましたが、今回は競業避止義務の有効性に影響する代償措置について、説明していこうと思います。
1 代償措置が考慮要素になる理由
競業避止義務は、本来スタッフの自由であるべき職業の内容を制限するものです。
そして、それはスタッフの生活に直結するものであるため、仮に競業避止義務を定めるとしても、その制限の代わりになるものの給付があったといえるかが考慮要素になってきます。
あくまで考慮要素の1つであるため、他の要素(制限を受ける期間や程度その必要性等)との総合的な判断にはなりますが、過去の裁判例からしますと重要な判断要素になっているといえます。
2 代償措置の内容
典型的には、支払われていた給与や賞与、退職金がそれなりに高額のものであるような場合には、そこに競業避止義務が課されることに対する代償が含まれているとされやすいです。
ただし、それなりに高額の給与を受け取っていたような場合でも、代償とは認められない場合もあります。東京地裁平成24年1月13日は、賃金が相当高額であったとしながらも、競業避止義務を負わない者であっても、高額の給与を受け取っている者がいたことを理由に代償措置としては不十分と評価されてしまっています。
競業避止義務をできるだけ有効とするには、何を代償措置にしているかを動物病院側もできるだけ意識して措置を講じることが重要といえます。そこが漠然としていますと、代償の性格が曖昧になるとともに、スタッフ獣医師も代償を受け取っている意識がなくなり、事後の紛争につながりやすいです。お困りの動物病院様は一度ご相談いただければと思います。