コラム

獣医師のカルテ⑤~有益な記載(2)~

弁護士 小島梓

 前回に引き続き,証拠として役立つかつてとするための有益な記載をご紹介していきます。

 二点目は,診察時のペットの状況を記載することです。多くの獣医師の先生方は,診察時にペットに問題があったり,体調が悪い場合には詳細な記載をしておられるのですが,ペットの体調が「良好」だったことの記載は欠落している方が見受けられます。

 実はこのペットの体調が良好だったこと,元気だったことの記載も重要になります。

 オーナーから訴訟提起された際に,獣医師の過失の有無が問題なりますと,獣医師に診察の時点で見逃しや,過失があったか否かの判断において、裁判所はどの時点でペットに異常が現れたかを気にします。

 例えば,診察時にもすでに元気がなかったのか,その時は元気だったが,帰宅後に状態が悪くなったのかなど,このあたりのことを,裁判所はオーナーや獣医師の主張を頼りに認定していかなくてはいけないケースがあります。

 この点が不明瞭になるケースが出てくる理由としては様々ですが,一つには当事者の記憶が曖昧になってくる点があげられます。

 訴訟にまでなるケースは対象となる事件が発生してから相当に時間が経過していることが多いです。事件発生から1年以上経過してから裁判手続きにかかるケースは決して珍しくありません。これだけ時間が経過しますと,当然,オーナーも獣医師も記憶があいまいになってしまいますよね。

 こうして,双方の主張が食い違うケースが出てくることになりますと,裁判所としてはどちらの主張が正しいのか見極めなくてはいけません。獣医師の先生方の中には,問題なかったからカルテに記載をしなかったのであり,記載がないことが良好だった証とおっしゃる方もいらっしゃるのですが,実際そうだとしても,裁判所では簡単に通用しないことも多いです。

 しかし,このような時も,カルテに診察時には体調良好だったという記載があれば,少なくとも同時点においては,獣医師の主張通り元気だったということを認定してもらいやすくなります。

 以上のように,診察時のペットの状態については,問題があるときのみならず,問題がない場合にも元気,良好と一言記載いただけると,先生方にとって有益な記載となり得ます。 次回も引き続き,カルテにおける有益な記載をご紹介していきます。