コラム

獣医療訴訟

ブリーダーの飼育するペットが死亡した場合の損害

弁護士 長島功

 獣医師の側の過失によりペットが死亡してしまった場合、その損害の中心は慰謝料になります。
 ただ、対象動物がブリーディング用のペットである場合、財産的な損害が問題になる場合があります。
 1 逸失利益
 法律上、逸失利益というものが損害として認められることがあります。
 これは、当該医療過誤がなければ得られたであろう利益のことで、こういったものも損害になり得ます(ただ、これは当該医療過誤により実際にかかった治療費等とは異なり、将来得られるかもしれないものという意味で、立証にはハードルがあります)。
 そして、ブリーディング用のペットについて言えば、この逸失利益が問題となり、オスであれば、将来交配することで得られるであろう利益、メスであれば交配により生まれる動物を売却することで得られる利益がこの逸失利益にあたります。

 2 逸失利益が賠償の対象となる場合
 では、上記逸失利益は、どのような場合に損害賠償の対象になるのでしょうか。
 民法では、損害賠償の範囲に関し、通常損害と特別損害(特別の事情によって生じた損害)に分け、通常損害については因果関係がある限り当然に賠償の対象となるものの、特別損害については、特別の事情を予見すべきときに限っています。
 そして、上記交配料等については、裁判例では通常損害とはされておらず、特別損害として扱われています。
 そのため、交配料がある程度安定的に得られているようなケースで、加害者側が予見できるような場合には、特別損害として賠償の対象になっており、獣医療過誤のケースでは、獣医師がそのあたりを予見できたであろうと言えるかが問題になってくるものと思われます。
 なお、仮に逸失利益の賠償までは認められなかったとしても、ブリーディング用のペットで財産的価値の高い動物だった場合には、慰謝料の中で考慮されることはあろうかと思います。