コラム

説明義務 裁判例

事故が起きてしまった場合の飼い主への説明・報告についての裁判例

弁護士 幡野真弥

 今回は、大阪地裁令和3年10月20日判決をご紹介します。
 麻酔を担当する獣医師が人工呼吸器の作動をし忘れ、手術室内の獣医師及び動物看護師が生体反応の監視を怠るという過失が原因で、犬が死亡してしまいました。
 裁判の中で、獣医師の説明義務・報告義務違反が争点になりました。
 一般論として、獣医師には飼い主に対する説明・報告義務あるとされており、本裁判例の裁判所も「獣医師又は獣医療機関は、民法645条により、動物の診療契約の当事者の請求があるときは、その時期に説明・報告することが相当でない特段の事情がない限り、契約の当事者に対し、診療の結果、治療の方法、その結果などについて説明及び報告する義務を負う。そして、診療中に発生した事故の報告は、事故の内容、事故原因の解明度、報告をした際の契約当事者への影響の有無、程度、担当獣医師と契約当事者とのそれまでの関係等を総合的に考慮した上、時機を失することなく速やかになされる必要があると解するのが相当である。」と述べています。
 
 もっとも、いつ、どのような内容で説明・報告するかはケース・バイ・ケースであり、具体的にどこまで説明する義務があるのかも問題となります。
 裁判で、原告は、以下の4つの義務の違反を主張していました。
①事故の原因が人為的なミスであることを説明する義務
②本件チームの構成員が誰であるか、それぞれの進行手順や役割、立ち位置はどのようなものであるか、執刀獣医、人工呼吸器を接続した者、麻酔管理をしていた者が誰であるかを説明する義務
③執刀獣医が不在の状態で本件手術が開始された理由、本件事故の直後に執刀獣医が講じた措置の有無及びその内容、執刀獣医が原告らに対して本件事故の直後に説明をしなかった理由、本件手術の管理責任者が誰であるかを説明する義務 
④手術担当チームの構成員と原告らとの面談を実施する義務

 今回、動物病院側は飼い主に対して適切な時期に適切な説明・報告をしており、上記①から④までの義務違反を認めませんでした(そもそも③と④については、義務の発生自体を認めていません)。もっとも、人工呼吸器の作動を忘れる等の過失はありますので、慰謝料等の損害賠償責任は裁判で認められています。