コラム

裁判例

馬が受傷・死亡してしまった場合の賠償額④馬が獲得する賞金

弁護士 幡野真弥

 今回は、馬が受傷・死亡してしまった場合、損害が争点になった裁判例のうち、馬の賞金獲得能力を基礎にして損害を算定した裁判例をご紹介します。

■宇都宮地裁足利支部昭和53年6月8日判決

 サラブレット5歳馬が、運搬中に交通事故で全身打撲の障害を負い、受傷期間は10ヶ月間となった(10ヶ月間レースに出られなかった)事例です。

 裁判所は、馬が受傷する前には、レースに出走した場合、1レース当たりの平均賞金獲得額は23万2303円だったことから、これに出走手当3万円を加えた26万2303円がレース1回当たりの平均収入だとしました。
 そして、受傷期間の10ヶ月の間に、馬は少なくとも17回はレースに出走することができたとして、26万2303円×17回=445万9151円を損害だと判断しました。

■東京高等裁判所昭和55年5月29日
 上記の判決の控訴審です。
 控訴審の裁判所は、本件馬が出場する競馬場と同じ地域の競馬場の賞金額が本件事故後に増加していることから、本件馬の受傷期間中の賞金額の平均は、休場前に比べて少なくとも1.3倍に達したと認められるとして、1レース当たりの平均賞金獲得額は30万1994円(23万2303円×1.3)であるとしました。
 そして、賞金額の2割は調教師、騎手、厩務員に割譲されるのが通例として、馬主の1レース当たりの利益は24万1595円(30万1994円×0.8)であるとしました。
 これに出走奨励金3万2000円と在厩馬手当5000円を加算した27万8595円が、レース1回当たりの馬主の平均収入としました。一審では「出走手当」という名目で3万円、控訴審では「出走奨励金」「在厩馬手当」いう名目で3万2000円と5000円と認定されており、一審と控訴審で、名目と金額が異なりますが、これは一審で主張立証が不十分だったところが、控訴審で補充されたために、判断が変更されたものと思います。

 そして、受傷期間の10ヶ月の間に、馬は少なくとも17回はレースに出走することができたとして、27万8595円×17=473万6115円を損害だと判断しました。