コラム

馬が受傷・死亡してしまった場合の賠償額①はじめに

弁護士 幡野真弥

 競走馬の輸送車が交通事故に遭い、競争馬が受傷・死亡してしまった場合は、高額な損害賠償責任が発生する、と語られることがあります。
 実際、2021年12月には、北陸自自動車道の柳ヶ瀬トンネルで、競走馬を載せたトラックの交通事故もあったようです。
 今回、馬に関する損害の賠償額が争点になった裁判例を調べてみました。

 馬の所有者に発生する損害としては、大きくは以下の2つがあります。
①馬自体の財産的価値
②逸失利益
 この他にも、馬の治療費や、死亡した馬の遺体の処分費用といったものも損害になりますが、治療費や遺体の処分費用は実額が損害として認められています。

 ①馬自体の財産的価値ですが、馬の個性は様々ですので、統一的な評価基準というものは難しいと思います。ただ、金銭的に評価する方法としては、以下のような評価方法が考えられます。
a  その馬について、直近で取引がなされている場合、その取引価格
b  類似の属性の馬の取引価格の平均価格
c  信用ある人物による評価(鑑定)による価格
d  一切の事情(上記a~cに加えその他の事情)の総合評価による価格

 未出走の競走馬は、②逸失利益を算定することが困難ですので、①馬自体の財産的価値が賠償額となることが多いようです。

 ②逸失利益とは、その馬の利用によって所有者が得られるはずだったけれど、死亡や受傷により得られなくなってしまった利益をいい、例えば、レースの賞金などが含まれます。
 算定方法は当該馬の性質によって様々です。
 死亡してしまった馬が、実際にレースに出走している馬であれば、1回当りの平均賞金獲得額×平均出走可能レース数として、逸失利益の算出をすることができます。
 死亡してしまった馬が、種牡馬であれば、その種付料の収入について、数年間の平均種付料×平均的種付可能期間として、逸失利益を算出することができます。
 死亡時点では現役の競争馬だけれども、引退後は種牡馬となるような馬のケースでは、一定期間(事故時点から、仮に生存していたならば引退していたであろう時期までの間)は競走馬として②逸失利益(獲得賞金額)を計算し、引退時点では種牡馬としての①馬自体の価値を算定するという複合的な算定方法を採用した裁判例もありました。

 次回以降のコラムで、実際の裁判例をご紹介し、その裁判例でどのように金額が算定されているかをご説明します。