コラム

オーナーとのトラブル

治療に非協力的なオーナー様への対応

弁護士 長島功

 獣医師の先生方より、治療に協力的ではないオーナー様への対応に関してご相談を受けることがあります。例えば、患畜を病院に連れてこず、薬の処方だけを求めてくる方や、次回来院の指示を守ってもらえないケース、獣医学的に誤った治療内容や処方を求めてくるケース等です。

 治療は獣医師が単体で行えるものではなく、オーナー様との信頼関係や協力関係がなければ、成り立たないものです。最高裁も、人医療に関してではありますが、患者も、医師の診断を受ける以上は、専門家である医師の意見を尊重し、協力する必要があるのは当然と判示したものがあり、これは獣医療でも同様といえると思います。
 もっとも、オーナー様が治療に協力してくれなかったということで、常に獣医師の責任が免れるわけではありません。あくまで患畜はオーナー様の所有であることから、如何に獣医学的に正しい治療であったとしても、オーナー様の意向を無視して治療を進めることはできません。そのため、非協力的なオーナー様に対しては、どこまで積極的に治療に関与をしていくべきか、悩ましいところはあるのですが、治療に非協力的な場合、当然のことながら患畜の病状が悪化する可能性は高く、オーナー様とトラブルになるリスクも高くなることから、獣医師としては、法的責任を問われないように、最低限行っておくべきラインというものが存在すると考えられます。
 それは、一言で言いますと、情報の提供です。いくら獣医師であったとしても、治療そのものを強行することはできませんが、情報の提供をすることは可能なはずです。よくあるケースとしては、獣医師の側も、オーナー様の協力が得られないと、最初から諦めてしまって、必要なことを言わなかったり、協力してもらえない可能性が高いからと、簡潔な説明に留めてしまったりするケースです。そして、獣医師の予想通り、悪い結果が起きると、オーナー様からは、なぜもっと説明をしてくれなかったのか、その説明を聞いていたら、治療に応じていたなどとして、トラブルになってしまいます。
 ですので、非協力的なオーナー様であっても、最低限、なぜその検査・治療が必要なのか、通院・入院管理が必要なのか、それを怠ると予後がどうなるのか、といったことをの説明はできるだけ丁寧に行い、情報の提供はするようにしましょう。また、こういったケースでは後々トラブルにはなりやすいため、説明をした内容は診療記録に記載をしておくことをお勧めします。