コラム

獣医療訴訟

獣医療訴訟について⑨因果関係

弁護士 幡野真弥

 ペットオーナーからの金銭請求は、法的には「不法行為に基づく損害賠償請求権」や「診療契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権」として構成されています。
 これらの権利が発生するためには、以下の要件が必要です。
① 診療契約の成立
② 獣医師の注意義務の存在とその義務違反(過失)
③ 因果関係
④ 損害の発生

 今回は、③因果関係についてご説明します。
 因果関係とは、過失と結果の間に、原因と結果の関係があることです。
 例えば、手術中に猫に対して避妊手術をしたところ、術後に尿がでなくなり3日後に死亡しました。
解剖したところ、獣医師が卵巣動脈を結紮する際に、左右の尿管を一緒に結紮していたことが判明しました(宇都宮地裁平成14年3月28日)。この事実関係であれば、「動脈と左右の尿管を一緒に結紮した」という獣医師のミスと、猫に死亡という結果との間に因果関係があると言えます。

 手技ミスの場合は、因果関係は判断が比較的容易ですが、しかし、実際の死因は解剖してみないとわからないことも多く、獣医師の側も、なぜペットが死亡したのかがわからないというケースも少なくありません。
 この因果関係があるかどうかの判断にあたっては、医療行為の不手際の内容、医療行為と結果との時間的関係、一般的統計的因果関係、医療行為の量と結果発生率、患者の特異性、他の原因行為の介入等の事情をを考慮要素とします。
 例えば、何らかの過失があったとしても、過失とは無関係の原因でペットが死亡した場合には、過失と結果との間に因果関係はなく、獣医師はペットの死亡については法的責任を負いません。
 損害賠償責任を認めるにあたっては、必ずしも自然科学的な意味での証明までは求められておらず、原因と結果との間に、高度の蓋然性があればよい(適切な治療をしていれば、結果が発生しなかったであろうといえる高度の蓋然性があれば因果関係を認めてよい)とされています。
  因果関係は、次回のコラムでご説明する④損害についても必要とされており、因果関係のある損害だけが、賠償の対象となります。