コラム

獣医療訴訟

獣医療訴訟について⑥過失~医療水準

弁護士 幡野真弥

 前回のコラム(https://www.juu-i.owls-law.com/2021/03/1904/)で、損害賠償責任が発生するためには、過失が必要(注意義務違反)であると説明しました。
 それでは、注意義務とは、どのレベルの医療水準をいうのでしょうか。この点については、人間の医療訴訟の分野で最高裁判決が出ています。
 昭和57年3月30日最高裁判決は、「注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」と判示し、その後、これが確定した判例の立場となりました。
 平成4年6月8日最高裁判決は、「医師は、患者との特別の合意がない限り、右医療水準を超えた医療行為を前提とした緻密で真摯かつ誠実な医療を尽くすべき注意義務まで負うものではなく、その違反を理由とする債務不履行責任、不法行為責任を負うことはない」と判断し、平成7年6月9日最高裁判決は「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療機関の特性等の諸般の事情を考慮すべき」と判断しました。
 医学的に最先端の治療が求められているわけではなく、医療機関の性格や、医療機関の特性に応じて、臨床の場で実践されているレベルが、求められる医療水準であるということが確認されています。

 獣医療においても、獣医師が負う注意義務は、診療当時の臨床獣医学の実践における医療水準であるとされています(東京高等裁判所平成20年9月26日)。
 実際の訴訟では、獣医学的文献が医療水準の証拠として提出されることが非常に多く、基礎的な文献に沿った処置であれば、過失と評価されるおそれは低いといえるでしょう。