コラム

獣医療訴訟

獣医療訴訟について⑤過失

弁護士 幡野真弥

 ペットオーナーが、獣医師に対し、損害賠償を求めるためには、法的には、以下の要件が必要です。

① 診療契約の成立
② 獣医師の注意義務の存在とその義務違反(過失)
③ 因果関係
④ 損害の発生

 今回は、②獣医師の注意義務の存在と、その義務違反(過失)についてです。

 前回のコラムでご絶命しましたが、ペットオーナーとの契約は診療契約であり、獣医師は、治療の効果を保証するものではありません(https://www.juu-i.owls-law.com/2021/03/1894/)。

 もちろん獣医師は、結果を保証しないからと言って、どのような診療を行ってもよい、というものではなく、専門家として適切かつ合理的に注意を払って、診療行為を行う必要があります。
 「獣医師は専門家として注意して診療しなければならない」、これを法的には「注意義務」を負っているといいます。不注意があれば「注意義務違反」であり、「過失」と評価されます。いわゆる「医療ミス」です。

 「獣医師は専門家として注意して診療しなければならない」といっても、獣医師が負う注意義務の内実にはさまざまなものがあります。以下、いくつか説明していきます。

1.作為による注意義務違反
 ア 適応違反
 イ 投薬ミス
 ウ 麻酔ミス
 エ 手技操作の誤り等
2.不作為による注意義務違反
3.転医義務違反
4.説明義務違反

 「作為による注意義務違反」とは、積極的に、具体的に何らかの行為を行ったことが過失と考えられる場合です。
 例えば、本来必要のない手術や、すべきではない手術をした場合は「適応違反」です。薬品の添付文書の記載に反して、禁忌となる動物に医薬品を投与し、副作用で死亡した場合は「投薬ミス」です。手技ミスの誤りは、手術の際に間違って血管を結紮してしまった場合などです。
 麻酔ミスは、適応欠如、過剰投与した場合などです。麻酔に関するトラブルは多いです。麻酔は、確率的に一定程度事故が発生してしまうので、麻酔のリスクを事前に説明しておくことが重要です。麻酔をかけるときにミスがなかったとしても、オーナーに対して事前に説明しておらず、心停止など麻酔リスクが発生してしまった場合は、4の説明義務違反となってしまう可能性があるため、注意が必要です。

「不作為による注意義務違反」とは、反対に、「具体的に何らかの行為をしなかったこと」が過失と考えられる場合です。例えば、不十分な診察・検査、誤診、不十分な治療等です。

 3転医義務違反と4.説明義務違反については改めて別のコラムでご説明します。

 さて、獣医師はこのように様々な注意義務を要求されていますが、その要求レベルはどの程度のものでしょうか。医学の世界は日進月歩ですが、医療機関の性質はさまざまです。常に最先端の医学に基づき、最高の治療することを獣医師は求められているのでしょうか?この点については、判例が確立しており、次回のコラムでご説明します。