コラム

獣医療訴訟

獣医療訴訟について④診療契約

弁護士 幡野真弥

 ペットオーナーが、獣医師に対し、損害賠償を求めるためには、法的には、以下の要件が必要です。

① 診療契約の成立
② 獣医師の注意義務の存在とその義務違反(過失)
③ 因果関係
④ 損害の発生

 今回は、「診療契約」についてご説明します。
 ペットオーナーが、獣医師に対し、ペットの診療を依頼し、獣医師はこれを承諾し、診療し、ペットオーナーに診療費用を請求する。これが診療契約の基本的な内容です。法的には【治療を中心とした事務処理を目的とする準委任契約】ということになります。

 診療契約が準委任契約であるということは、どういう意味かといいますと、ポイントは、
●適切な治療行為を行うことが、あくまで契約の目的である。
●病気や怪我の完治や改善といった結果の保証が目的ではない。
 ということです。

 つまり、通常は、病気や怪我の治癒、健康状態の改善等を指向して最善の処置を行うことが内容であって、「病気や怪我の完治や改善」といった一定の結果を達成することが契約の目的ではないということになります。
 したがって、獣医師は、医療水準にかなった適切な治療行為を行えば契約上の義務を尽くしたこととなり、ペットの病気が改善しなかったからといって、ただちに契約違反となり、賠償責任を負うわけではありません。

 言い換えますと、「ペットの病気が治らなかった、ペットが死亡してしまった、だから医療ミスがあったので慰謝料を払え」といったペットオーナーからの請求は理由がないこととなります。
 そこで、問題になる点は「医療水準にかなった適切な治療行為」が行われたがどうかになります。この点が、獣医師に損害賠償責任が発生する場合の要件②「獣医師の注意義務の存在とその義務違反(過失)」となります。過失については、次回のコラムで取り上げます。