コラム

獣医療訴訟

獣医療訴訟について②大まかな流れ

弁護士 幡野真弥

 獣医療訴訟でも、通常の民事訴訟の審理と同じく、裁判所が判決を出すには、一定の事実があると認定されなければなりませんし、事実の認定をするには、証拠が必要です。

 獣医療訴訟で最終的な判断の対象となるものは、金銭的に損害賠償をする責任があるかどうかです。今後のコラムで少し詳しくご説明しますが、「医療行為にミスがあり、そのミスが原因で損害が発生した」という事実が認定できた場合に、獣医師は損害賠償責任を負います。

 裁判では、医療記録や獣医学的な知識をもとに、診療当時のペットの全身状態や行われた診療行為を推測し、医学的文献等から、どのような診療行為を行うべきであったのか、実際にどのような診療行為が行われたのか、その診療恋は医療水準に沿ったものであったのかが判断されます。

 裁判では、医療記録、獣医学の文献、大学教授の意見書、ペットオーナーとの会話の録音、メール、当事者の証言などが証拠になります。

 裁判は、一日では終わりません。ペットオーナー側と獣医師側とが、お互いに主張を尽くし証拠を提出し、双方の言い分で何が食い違うのか、どの部分が一致しないのかを整理していきます。裁判の期日は、通常は1月に1回程度開かれ、期日の間に主張を書面で交互に提出していくという作業が繰り返されます。そして、双方の主張が尽きて争点が形成されると、当事者等の尋問が行われ、判決となります。裁判にかかる時間は、およそ1~2年位です。
 すべての事件が判決まで進むのではなく、和解(当事者の合意による解決)となることも多いです。和解は、判決と違って柔軟な解決が図れることが特徴です。判決は権利の有無だけが問題になる(法的に賠償責任があるかどうか)のですが、和解であれば、ペットの死に対して哀悼の意を表したり、和解内容を口外することを禁止したり、過失はないもののペットオーナーの心情に配慮し、治療費を返還するといった内容で合意して事件を終了させることも可能です。

 判決が出たあと、当事者のいずれにも判決に不服がなければ、その判決が確定します。ペットオーナーの損害賠償を請求を認める内容の判決が出れば、判決内容にしたがった賠償金を支払うことになりますし、ペットオーナーの請求を棄却する内容の判決が出れば、金銭を支払う必要はなく終了します。

 判決の内容にどちらかが不服がある場合は、控訴します。控訴した事件を審理する裁判所を控訴審といいますが、控訴審では、すでに第一審で主張や審理を行っているため、新たに主張や立証を一からやり直す必要はありません。追加で主張や立証を行うことも可能ですが、多くの場合は、控訴審では期日は一度のみ開かれ、判決期日も指定されます。そして判決までの間に、裁判官より和解の勧めがなされますが、和解成立が難しければ、判決となります。
 控訴審の判決ついても不服を申し立て、最高裁判所に上告することは可能ですが、法律上、上告理由は限定されており最高裁判所で審理がされることはほとんどありません。