コラム

動物病院における診療債権の消滅時効

弁護士 長島功

 診療費をオーナー様に支払ってもらえず,お困りになっている獣医師の先生方もおられるかと思いますが,これをずっと放置していると時効によって,請求できなくなってしまう可能性があります。
 では,この診療債権の時効期間は法律上どうなっているのでしょうか。
 平成29年に民法が改正されたことで,時効期間も変わりましたので,この機会にご紹介しておこうと思います。

1 改正前
 改正前は,職業別に時効期間に関する特別な定めがおかれており,医師,助産師又は薬剤師の診療,助産又は調剤に関する債権については,3年間行使しないと,時効が完成するとされていました。そして,医師の診療に準じて,獣医師の診療債権もこの規定により,3年間行使しないと,時効により消滅すると解釈されていました。

2 改正後
 ただ,職業別の定めは複雑で分かりにくいという指摘もあって,改正により職業別の時効制度は廃止され,時効期間は単純化・統一化されました。
 その結果,改正により,債権は,権利者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき,又は,権利を行使できる時から10年間行使しないときは,時効によって消滅するとされました(民法166条1項各号)。もちろん,獣医師の診療債権も含まれます。
 権利を行使できる時とできることを知った時で分けて定められてはいますが,動物病院における診療債権は権利行使ができる状態になれば,それを知っているのが通常ですので,基本的には5年で時効消滅してしまう可能性が高いとお考えいただいて良いと思います。

3 注意点
 このように改正前と後で時効期間が変わりましたが,改正後の時効期間が適用されるのは,改正法が施行された後に発生した債権に限ります。
 具体的には,令和2年4月1日に改正法が施行されましたので,それ以前に発生した診療債権は,改正前の規定によります。
 また,法律上のルールとしては上記のとおりですが,たとえ時効期間が過ぎていなかったとしても,何年も放置をするのは,支払ってもらえる可能性がどんどん低くなりますし,望ましいとはいえません。
 ですので,ルールは押さえていただきつつも,債権の管理は院内でしっかりと行っていただき,できるだけ速やかに督促や法的手続の検討をされることをお勧めします。
 なお,時効で消えてしまうのではないかと思っても,時効の完成猶予や,更新といった制度により,実は時効が完成していなかったりすることもありますので,ご不明な点があれば,個別にお問合せいただければと思います。