コラム

証拠保全 獣医療訴訟

証拠保全③

弁護士 長島功

 前回(証拠保全②)では、執行現場でどのようなことが行われるかのお話しをしましたが、今回は、現場での裁判官からの要請に対して、実際どのように対応すれば良いのかについて解説したいと思います。

1 拒否できるのか
 証拠保全の決定により、裁判官が病院に来ますので、一見すると、証拠保全には何か強制力のある感じがします。
 しかし、病院側の承諾なしに、無理やり院内に入ってきたり、無理やり記録を開示させられたりと物理的な力を行使されることはありません。捜査機関が行う家宅捜索のようなものとは違います。
 そのため、院内への立ち入りを拒否したり、裁判官からのカルテ開示の協力要請も拒否をすることは可能です。
 また、裁判官からの説得にもかかわらず、開示に応じない場合は、裁判官より提示命令というものを受ける可能性があるのですが、この提示命令にも強制力はありません。そのため、提示命令が出たとしても、最後まで拒否をすれば、証拠保全の実施は不能となって、手続は終了となります。

2 拒否をするべきなのか
 では、強制力がないからということで、カルテなど対象物の提示を拒否するべきなのでしょうか。
 仮にこれを拒否した場合、先ほど述べたように、たしかにその場で、無理やり開示をさせられることはありません。
 ただ、現場で裁判官からも説明されるかと思いますが、その後の手続で不利益を受ける可能性があります。例えば、提示命令を受けたにもかかわらず、協力をしなかった場合には、その後の裁判で原告、つまりペットオーナー側の主張が真実と認められてしまう恐れがでてきます。これは真実擬制といって、民事訴訟法に定められているものです。
 また、そのような真実擬制まで受けなかったとしても、診療記録を開示しないというのは、裁判官の心証をかなり害します。
 したがって、証拠保全の執行を受けた場合には、基本的には適正な範囲で対象物の提示に協力をするべきで、強制力がないからという理由で開示を拒否するのは避けるべきです。

3 気を付けるべき点  
 裁判官が執行の現場にはいますので、基本的には違法な証拠保全が執行されることはないと思います。
 ただ、証拠保全の執行を受けた場合、できれば、以下のような点を注意するようにしていただければと思います。
(1)対象物
 証拠保全の執行を受けたからといって、あらゆるものの提示を求められる訳 ではありません。
 証拠保全の決定書には、対象物の目録があるはずですので、求められている対象物がその目録にあるものなのかを確認するようにしましょう。
(2)場所
 また、証拠保全を実施する場所も決定書では特定されています。
 したがって、例えば全く違うところに対象物があるようであれば、その旨を説明し、その場では提示できないことを説明するようにしましょう。
 こういった場合、再度の証拠保全を待って提示でも良いですが、煩雑ですし、改めて証拠保全に立ち会わないといけない負担等を考えると、あまり効率的ではありません。
 そのため、後日任意に開示するという対応をすることが多いです。
(3)検証調書への記載
 執行の現場では、オーナー側代理人が、対象物について、色々記録に記載するように言ってくることがあります。
 ただ、オーナー側代理人が指摘する内容が誤っている可能性もあるため、記録に書かれる内容が誤っていないかを確認するとともに、万一誤りがある場合は、その場で修正を求めるようにしましょう。