コラム

労務問題

懲戒処分⑤~その他の規制~

弁護士 長島功

 これまで懲戒処分を行うにあたっての一般的なルールをいくつかご説明してきましたが、その他の規制についてもご説明していきます。
 懲戒処分は、刑罰そのものではないのですが、制裁罰としての側面があることから、刑事法の分野における厳格なルールが適用されることがありますのでご紹介します。

1 不遡及の原則
 これは、新たに設けた懲戒規定を過去の行為に遡って適用することはできないというものです。
 これにより、懲戒処分の対象行為が行われる前に、その行為が懲戒事由として定められている必要があります。
 獣医師の先生方より、ご相談をいただく際、まず就業規則での懲戒事由の有無及びその内容を確認させていただくのですが、就業規則がそもそもなかったり、十分な懲戒事由が定められていないことがあります。その場合、「では今から懲戒規定を作って、懲戒処分をしよう」とされることもあるのですが、それは上記不遡及の原則からできないことになりますので、注意が必要です。

2 二重処分の禁止
 これは一度、懲戒処分をしたスタッフの問題行動については、それを再度懲戒処分の対象にすることはできないというものです。
 実際の事例では、過去に処分を受けた行為について、ただ反省の態度がみられないということだけを理由に懲戒処分をすることはできないとして、解雇を無効としたものがあります。
 ただし、新たな懲戒事由に該当する問題行為の処分を考えるにあたって、過去の処分歴を情状として考慮し処分することは許されると考えられています。

 このルールとの関係で問題になるケースは、例えばスタッフのハラスメントがあり、一度懲戒処分を行ったものの、その後に、ハラスメント被害者が心の病を引き起こすなど、大きな被害が生じたため、より重い処分を検討する場面があります。ただこのようなケースで、改めて重い処分を行おうとしても、二重処分の禁止との関係で、重ねて処分を行うことはできないことになります。
 そのため、こういったケースでは、できるだけどのような被害が出ているか(或いは出そうか)などを見極めた上で、慎重に処分を決める必要があるといえます。