コラム

証拠保全 裁判例

証拠保全④~証拠保全の対象から外れる文書~

弁護士 長島功

 証拠保全の目的や流れ等について、以前コラムで書かせていただきましたが、今回は証拠保全の対象から外れる文書について、お話ししたいと思います。
 以前のコラムでは、証拠保全の際、診療記録の提示を求められた際は、基本的に裁判所の要請に従い、拒否をするのは避けるべきということを書かせていただきました。
 ただ、当該患畜に関して、院内で保管しているあらゆる文書が証拠保全の対象となる訳ではなく、仮に提示を求められたとしても、提示を争うべき文書も中にはあります。
 裁判例では、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に該当する場合には、検証物の提示命令を認めない判断をしているものがあることから、この点について、以下解説をしたいと思います。

「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(以下、「自己利用文書」といいます)というのは、民事訴訟法220条4号ニというところに出てくるもので、この条文自体は、医療機関に対する証拠保全でよく利用される「検証」という手続とは違うものです。
 ただ、裁判所は、この自己利用文書に該当するような場合は、常にではありませんが、検証物の提示を拒むことができる場合があることを認めています。
 どういったものが、この自己利用文書に当たるかですが、最高裁は、
・専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であること 及び
・開示されると個人のプライバシーが侵害されたり、個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって、所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあること
 といった要件が認められれば、特段の事情がない限り当該文書は、自己利用文書にあたるとしています。
 そのため、仮に当該患畜に関するものであったとしても、院内で再発防止のために作成されるようなインシデントレポートやアクシデントレポートのようなものは、自己利用文書に該当する可能性があります。

 もっとも、こういった文書が、提示の必要がある診療記録等と一体化して保存されてしまっている場合、なかなか証拠保全の現場でその一部だけを拒否するのは難しいです。
 ですので、患畜の診療記録とあくまで院内で使用する内部文書は分けて保管をしておくことはお勧めします。